歴史を学ぶ

【岩手の銘菓】明がらす誕生に関わった藤波子爵とは?憲法と馬政に通じた明治の先人

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岩手県遠野市の銘菓「元祖明がらす」。
ごまとくるみが練り込まれたもちもちとした食感と、素朴な甘みが魅力のお菓子です。

この銘菓には、明治時代に活躍した藤波子爵という人物との意外なつながりがあることをご存じでしょうか。
今回は、明がらすの誕生にまつわるエピソードをたどりながら、藤波子爵の知られざる一面をご紹介します。

百貨店も注目する遠野の銘菓

元祖明がらすは、香ばしいごまとくるみの風味ともちもちとした食感が特徴の、素朴ながらもクセになるお菓子です。

この味わいは、和菓子業界のプロからも高く評価されています。
高島屋の和菓子バイヤーとして知られる畑主税さんは、X(旧Twitter)にて次のように綴っています。

遠野を再訪する理由に「まつだ松林堂」を挙げるほど、明がらすには人を惹きつける魅力があるのかもしれません。

明がらすを贈られた藤波子爵とは

「元祖明がらす」の栞(左:南部駒の絵、右:由来説明)

「元祖明がらす」の箱に同封されている栞には、次のような由来が記されています。

明治四十年七月、時の馬政局次長だった藤波子爵が南部駒の市場として盛岡と並び称された遠野に馬産視察で訪れた際、くるみの切り口が、明け方に飛ぶからすの様子に似ていることから、二代目松田桂次郎が「明がらす」と命名して同子爵に贈ったのが「元祖明がらす」の起源でございます。

出典:遠野銘菓 元祖明がらす 栞

ここに登場する藤波子爵とは、藤波言忠(ふじなみ ことただ)のことと考えられます。

画像出典:『華族画報』(華族画報社, 1913年)掲載「藤波言忠」Wikimedia Commons(パブリックドメイン)※サイズ調整あり https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9b/Kototada_Fujinami.jpg

国立国会図書館デジタルコレクションに収められている『馬政局事業概要 第5次』によれば、藤波言忠は明治39年から41年にかけて馬政局の次長を務めていました。

馬政と憲法に通じた明治の先人

藤波言忠についてさらに調べてみると、彼はただの官僚ではなく、多才な人物であったことがわかりました。

  • 嘉永6年(1853年)生まれ、大正15年(1926年)没
  • 明治天皇のご学友であり側近
  • 馬に対する鑑識眼を評価され、馬政局次長に就任
  • 一方で、オーストリアに留学し、憲法学を修める
  • ドイツの憲法学者シュタイン(伊藤博文の師)に師事
  • 明治20年、帰国後に明治天皇と皇后に憲法学を進講

特に注目したいのは、明治天皇と皇后に憲法学を直接進講したという事実です。
その2年後の明治22年には、大日本帝国憲法が発布され、日本で初めての近代憲法が誕生しました。

明治天皇と皇后がご学友である藤波言忠を通じてドイツ憲法を学ばれていたと知り、あらためて憲法発布の歴史の重みを感じました。

 

最初は「馬の専門家がどうして憲法学も?」と不思議に思ったのですが、経歴をたどってみると自然と納得できます。
藤波言忠は学問に秀でていたからこそ、馬政にも憲法学にも携わることができたのでしょう。

そして、その藤波子爵と明がらすの誕生がつながっていたこと。
岩手の銘菓がきっかけとなって、日本の近代国家形成に関わった先人の歴史に触れることができました。

地域の名物には、こうした意外な歴史が潜んでいることがあります。
元祖明がらすを味わうたびに、藤波言忠という明治の先人の歩みが思い出されるかもしれません。

 

<参考資料>

・[馬政局 編]『馬政局事業概要』第5次,[馬政局],〔大正4-8〕. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/930540 (参照 2023-09-20)

・産経新聞「忘れられた明治憲法 公布130年で今一度見直す好機」(2019/5/3)

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