青森県、特に津軽地域のニュースを日々チェックしていると、弘前藩の歴代藩主たちが遺した文化にたびたび出会います。
今回取り上げるのは、その中でも弘前市を中心に栽培されているトウガラシ「清水森(しみずもり)ナンバ」。
このトウガラシ、実は400年以上の歴史を持つ伝統野菜なのです。
清水森ナンバとは?
「清水森ナンバ」は、弘前市南部の清水森地区を中心に津軽地域で栽培されているトウガラシです。
まろやかな甘辛さが特徴で、地元では昔から親しまれてきました。
私が初めてこの清水森ナンバを食べたのはつい最近のことで、弘前市内のホテルでの朝食バイキングでした。
清水森ナンバを使った炒め物だったんですが、辛味がまろやかでどんどんご飯が進んだことを覚えています。
実はこの清水森ナンバ、2022年には日本テレビ系列の朝の情報番組「ZIP!」で紹介されていました。
あさって19日の #ZIP は青森から生中継😍😍
— RAB青森放送[公式] (@rab_information) September 17, 2022
お天気カメラにのせて、
「門外不出!?400年の歴史!清水森ナンバ」
を全国に紹介🔥
ナンバ味噌をオンザライス🍚
青森県民定番のごはんのお供🤤#橋本莉奈 アナウンサーがリポート👏
放送は7:40頃です! @ZIP_TV pic.twitter.com/xRnqipg133
RAB青森放送のポストによると、ナンバ味噌をご飯にのせるという定番の食べ方をリポートしていたようですね。
清水森ナンバの歴史
さて、清水森ナンバについて、私には二つの疑問がありました。
一つは、津軽地域で生まれ育ったのに、私は清水森ナンバを知らないまま育ったこと。
もう一つは、弘前に暮らしていた亡き祖母は郷土料理をよく作ってくれた人だったのに、なぜかこの清水森ナンバを使った料理は出さなかったこと。
その理由は、歴史をたどるうちに見えてきました。
津軽為信が京都から持ち帰る

清水森ナンバの起源は、弘前藩初代藩主・津軽為信(1550–1607)にまでさかのぼります。
為信が京都・伏見稲荷からトウガラシの種を持ち帰り、城下で栽培を始めたと伝えられています。
ここで清水森地区を地図で確認してみると、為信が居城を構えていた堀越城跡のある堀越のすぐ近く。
当時、清水森地域が城下だったことを考えると、この伝承の信ぴょう性は高いと言えるでしょう。
ちなみに、この近隣にある堀越小学校では、清水森ナンバの植え付けと調理体験をする授業が実施されています。
昭和後期に生産減──そして復活へ
江戸時代から親しまれてきた清水森ナンバですが、昭和40年(1965)以降、海外産トウガラシとの競合により生産量が激減。
平成10年代には、栽培農家が1戸にまで減少してしまいました。
その後、弘前大学と地元農家による復活運動が始動し、令和2年(2020)には栽培農家が60戸以上にまで回復。
現在では、地元の研究会が種子や流通を一元管理し、品質の維持と地域ブランドの保護に努めています。
同年には、農林水産省の「地理的表示(GI)保護制度」にも登録され、弘前の特産品のひとつとして定着しています。
(地理的表示(GI)保護制度とは、その地域でしか作れない特別な産品を保護する制度のこと)
清水森ナンバを知らなかった理由
この復活の歴史を知って、ようやく合点がいきました。
私が祖母の料理で清水森ナンバを見た記憶がなかったのは、祖母が孫に元気に料理をふるまっていたまさにその時期、清水森ナンバの生産が危機的状況に陥っていたからなのでしょう。
料理好きだった祖母のことですので、きっと若い頃には清水森ナンバを使っていたはず。
そう考えると、「清水森ナンバ」という名前に馴染みがなかったのも不思議ではありません。
津軽為信が400年前に京都から持ち帰ったトウガラシは、困難の時代を経て、いまや弘前を代表する農産物へと発展を遂げました。
為信といえば、戦国武将として津軽地方を統一し、弘前藩を創設し、体制を整備したことがよく知られていますが、清水森ナンバの栽培振興もまた、もう一つの功績と言えるかもしれません。
参考資料
- 「小学生が清水森ナンバ調理体験 弘前」(https://www3.nhk.or.jp/lnews/aomori/20241022/6080023878.html)(2024/10/22)
- 「地場のトウガラシ“清水森ナンバ”小学生が植え付け 弘前」(https://www3.nhk.or.jp/lnews/aomori/20250603/6080025807.html)(2025/6/3)
<ウェブサイト>
- 農林水産省ホームページ「第105号:清水森ナンバ」(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/0105/index.html)(2020/12/23)
- 農林水産省ホームページ「特定農林水 産物等 登録簿」(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/0105/pdf/0105_register.pdf)
- NARO Genebank「『清水森ナンバ』品種情報」(https://www.gene.affrc.go.jp/databases-traditional_varieties_detail.php?id=02008)