雑記

【青森ねぶたの記憶】平成22年(2010)出陣ねぶたが描いた神話と英雄たち

雑記

東北の夏祭りの季節が始まりました。

この季節に思い出すのが、あの勇壮な青森ねぶた祭の光景です。

現地に足を運ぶことは叶いませんが、ふと古いフォルダを開いてみたところ、懐かしい写真がいくつか見つかりました。

今回は、その中から私が平成22年(2010)に撮影した青森ねぶたの写真をもとに、印象に残った三台のねぶたをご紹介したいと思います。

各作品について、「物語のあらすじ」と「ねぶたの見どころ」の二つの視点からふりかえります。

(あらすじについては、青森ねぶた祭 オフィシャルサイト「大型ねぶた紹介: 2010年 – アーカイブ」を参考にしました)

題材はいずれも日本神話や英雄譚。

神話と英雄の物語が、ねぶた師の手によって光と造形で表現される…その魅力を感じていただければ幸いです。

不動の剣、義仲を救う(北村蓮明 作)

まずご紹介するのは、北村蓮明氏によるねぶた「不動の剣、義仲を救う」。

物語のあらすじ

このねぶたは、平安末期の武将・木曽義仲の伝承に基づいています。

源頼朝や義経のいとこにあたる義仲は、信濃で育ち、のちに平家を奇襲して入京、「朝日将軍」と呼ばれました。

ねぶたが描くのは、義仲が平家との戦いで苦戦を強いられる場面。そこに、不動明王が現れます。

不動明王はかつて自分の剣を平家から奪い返してくれた義仲の窮地を救ってくれたのです。

兜と配置から推測するに左の武将が木曽義仲。この年の知事賞と囃子賞を受賞しました。

ねぶたの見どころ

左に描かれているのは木曽義仲。平家の大軍に追い詰められた義仲を、不動明王が救う場面が迫力満点に描かれています。

憤怒の形相をたたえ、炎を背景に迫ってくる不動明王は、見る者を圧倒します。

北村蓮明氏は、色彩が豊かで躍動感のあるねぶたを作るねぶた師です。

また、構図が巧みで、義仲、不動明王、平家の武将の三者いずれも勇ましく表現されています。

この三軸構成、あるいは、三者を劇的に配置する構図と言えばいいのでしょうか。

北村蓮明氏はこうした複雑な構図を得意としていて、特に水滸伝を題材にしたねぶたでは過去複数回、三者が争うさまを表現したことがあります。

そのねぶたがすごく勇ましく、そして華やかであり、観ているだけで高揚感が湧いてくるんですよね。

幼い頃に衝撃を受けて以来、ずっと北村蓮明氏のねぶたのファンです。

(あと、このねぶたでは描かれていませんが、北村蓮明氏が表現する女性はとっても優美なんですよ)

この年の知事賞を受賞したねぶたであり、ねぶた師・北村蓮明氏の作風の特徴がよく表れた作品でした。

海幸彦 山幸彦(北村隆 作)

次に紹介するのは、北村蓮明氏の双子の兄、北村隆氏のねぶた「海幸彦 山幸彦」。

物語のあらすじ

この物語は、『古事記』に登場する兄弟神の神話です。

山幸彦と海幸彦はそれぞれ狩りと漁が得意でしたが、ある日道具を交換したことで事件が起こります。

山幸彦が海で兄の釣り針を失くしてしまい、海幸彦は激怒。

山幸彦は釣り針を探すべく海神の宮へ。鯛の中から針を取り戻し、海神から宝玉を授けられます。

その宝玉の霊力を用い、山幸彦は兄の海幸彦をこらしめます。

この山幸彦の子孫は、初代天皇・神武天皇とされています。

左の宝玉を持っているのが山幸彦、右が海幸彦。中央にいるのは、山幸彦が紛失した釣り針を飲み込んでいた鯛。この釣り針は兄の海幸彦のものです。

ねぶたの見どころ

左側には宝玉を掲げる山幸彦、右には兄の海幸彦。

中央には釣り針を飲み込んだ鯛の姿も描かれており、兄弟の対峙が緊張感ある構図で表現されています。

この物語、海幸彦が不憫だと思うのですが、ねぶたでは弟と対峙する姿がかっこよく描かれていますね。

裏面(送り絵)にはイルカや海の生き物たちが表現されており、神話の舞台である海神の宮の世界観が伝わってきます。

イルカが楽しそう^^

天孫降臨 猿田彦(竹浪比呂央 作)

最後にご紹介するねぶたは、竹浪比呂央氏による「天孫降臨 猿田彦」。

物語のあらすじ

このねぶたは、日本神話「天孫降臨」の場面を描いています。

天照大御神は地上統治のために孫の瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)を高天原から遣わしましたが、その道を猿田彦神が塞いでいました。

天鈿女命(アメノウズメノミコト)が問いただしたところ、道案内として出迎えたことが判明し、以後、猿田彦は道祖神・交通安全の神として広く信仰されるようになります。

隠れてしまっていますが、左が瓊瓊杵尊で、右が猿田彦。猿田彦の表情がかっこいい。

■ねぶたの見どころ

猿田彦の鋭い眼差しと、凛々しい姿が印象的で、神話の世界の荘厳さが伝わってきます。

この作品は、JRねぶた実行プロジェクトによって制作されました。

この年の12月に控えていた東北新幹線の全線開業を寿ぎ、交通の神である猿田彦の御加護を願った縁起の良いねぶたです。

このねぶたに限らず、青森ねぶたはその時々の世相や話題を取り上げることも多く、災害復興、世界平和への祈りを込めたねぶたも過去多数ありました。

そうした要素も含めて、青森ねぶたはメッセージ性が強く、興味深いんですよね。

 

こうして過去に撮影した写真を見返すことで、その当時の空気や自分の感情までよみがえってきます。

現地での鑑賞は難しくとも、こうして写真でふりかえる時間もいいものですね^^

 

<参考資料>

青森ねぶた祭 オフィシャルサイト「大型ねぶた紹介: 2010年 – アーカイブ」(https://www.nebuta.jp/archive/nebuta/2010/)

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