歴史を学ぶ

【御製に詠まれた風景】「花火ひらき 風船あがり 青森の…」あすなろ国体開会式の記憶

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令和8年(2026)、青森県では令和初となる国民スポーツ大会(旧・国民体育大会)の開催が予定されています。

これに先立ち、青森県庁では皇族の来県に備えて「行幸啓室」が新設されたというニュースが報じられたことは、先日のブログでご紹介した通り。

今回は、その約半世紀前、昭和52年(1977)に青森県で初開催された「あすなろ国体」の開会式について振り返ります。

資料や写真、そして開会式に御臨席された昭和天皇の御製(天皇陛下が詠まれる和歌)を手がかりに、当時の熱気を追体験してみたいと思います。

快晴の空の下で行われた開会式

参考にした資料は、前回のブログに続いて『行幸啓誌』(出版:青森県、1978年2月)。

この貴重な記録集には、あすなろ国体に際して行幸された昭和天皇の動静や、開会式の様子が多数の写真とともに収められています。

開会式は、昭和52年10月2日(日)に、青森市の青森県総合運動場陸上競技場で行われました。

現在は老朽化により解体済みですが、当時は県内最大級の競技施設でした。

当日の写真からは、快晴の空のもと、満員の観客席と賑やかなグラウンドの様子が伝わってきます。

 

ちなみに、下記は平成27年(2015)9月当時の青森県総合運動場陸上競技場の様子です↓

この時点で老朽化はだいぶ進んでいるものの、運動部と思しき学生たちの姿があり、かつての賑わいの名残が感じられますね。

昭和天皇の御製が伝える式典の空気

開会式に御臨場された昭和天皇は、後に次の御製を詠まれています。

花火ひらき 風船あがり 青森の 秋の広場に 若きらつどう

出典:『行幸啓誌』

風船と花火が空に舞い、秋空の下で多くの若者が集結する様子。

この御製からは式典の華やかさと熱気を感じ取ることができます。

花火や風船などの演出の詳細記録は今回見つけられませんでしたが、昭和天皇の心に残るほど印象的だったことがうかがえます。

また、昭和天皇は当日、以下のような御言葉も述べられました。

本日、青森県において開催される第32回国民体育大会秋季大会の開会式に臨み、全国各地から選ばれた諸君の元気な姿に接し、誠に喜びに堪えません。……(中略)……選手諸君は、正々堂々と、日ごろ鍛えた実力を十分発揮するとともに、今後もさらに精進を重ね、明るく豊かな国民生活の進展に寄与するよう、切に希望します。

出典:『行幸啓誌』

この御言葉と御製からは、開会式に集まった若者たちへの期待と祝福の気持ちが読み取れます。

“青森の祭典”とも言える開会式

『行幸啓誌』の写真を見ていると、開会式は単なるスポーツ大会の式典ではなく、まさに”青森の祭典“とも呼べるものでした。

  • 卓球の世界王者・河野満選手による選手宣誓
  • 「あすなろの火」が灯された炬火台
  • 春の喜びを表現した幼児たちの群舞
  • 津軽情っ張り大太鼓の迫力ある演奏
  • 青森ねぶた「素戔嗚尊 大蛇退治」の出陣
  • “あすなろ”をテーマとしたマスゲーム
  • 高橋竹山による津軽三味線の生演奏

これらの演出を通じて、青森県の誇る文化が全国に発信されたことがわかります。

ねぶた好きとしては、「素戔嗚尊 大蛇退治」というテーマに注目。

大蛇に挑む素戔嗚尊は競技に臨む選手を象徴しているように見え、また、国体という大事業に挑戦した青森県の姿を重ねているようにも思えます。

昭和から令和へ、変わる式典のあり方

ChatGPTによるイメージイラスト

昭和52年当時、青森県の人口は約150万人に迫る勢いで、まだ高度経済成長の余韻が残る時代でした。

亡き父に昭和後期の青森について尋ねたところ、「社会全体に『これからも上手くいきそうだ』という希望があった」と語ってくれたことがあります。

(「今のような子育て不安なんてなかった」とも)

そんな時代背景の中、県民と行政が一体となり、「とにかく良いものを作ろう」という気運が高まっていたのだと感じます。

あすなろ国体の開会式は、そうした時代の希望が反映された象徴的な舞台だったのかもしれません。

 

来年、令和8年(2026)に開催予定の国スポでは、開会式は屋外から屋内開催へと変更されます。

これは、開催自治体の負担軽減を考えると、非常に現実的な判断だと思います。

一方で、屋内開催であれば、天皇皇后両陛下が御臨場される際の警備がしやすくなるので、安心要素でもあります。

時代が変われば、式典の形も変わるのは当然のこととして…このあすなろ国体はこれからも語り継いで欲しいと当時の写真を見ながら思いました。

私は景気の良い時代の青森を知らない世代なので、青森でこんなに熱気あふれる開会式が行われたことがちょっと信じられないくらい。

あすなろ国体開会式の記録は郷土への愛着を思い起こさせてくれました。

 

本当は写真をお見せしたいのですが、著作権がある資料のため今回は言葉だけでお届けしました。

気になる方は、国会図書館デジタルコレクションに収蔵されている『行幸啓誌』を御覧になることをお勧めします(別途登録が必要です)。

参考資料

<国立国会図書館デジタルコレクション>

  • 『行幸啓誌』,青森県,1978.2. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12261230 (参照 2025-06-19)

<ウェブサイト>

  • RAB 青森放送 – 日テレNEWS NNN「【特集】半世紀以上青森県スポーツ史の中心だった旧陸上競技場スタンド 解体作業進む」(https://news.ntv.co.jp/n/rab/category/life/ra9128df02150945afba99d6eec4f02296)(2024/6/4)
  • 弘前観光コンベンション協会ウェブサイト「津軽情っ張り大太鼓 – 弘前市」(https://www.hirosaki-kanko.or.jp/edit.html?id=joppari)
  • 産経ニュース「国民スポーツ大会の開閉会式を屋内開催へ 2026年大会の青森、簡素化で時短や負担軽減」(https://www.sankei.com/article/20241120-VFK2647QQVLCDERNKEKMS74264/)(2024/11/20)
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