令和8年(2026)1月14日、新年恒例の「歌会始の儀」が、皇居・宮殿「松の間」で「明」をお題に行われました。
歌会始とは、共通のお題で詠んだ和歌を宮中で披講する年始の宮中行事です。
今年、天皇陛下は元日の歳旦祭(1月1日早朝、天皇陛下が新年を祝い、国民の福祉、五穀の豊穣、皇室の繁栄を祈る祭祀のこと)に臨まれた際の情景をもとに、次の御製を詠まれました。
天空にかがやく明星眺めつつ新たなる年の平安祈る
出典:宮内庁ホームページ
宮内庁ホームページによれば、陛下は「賢所の回廊から澄んだ冬の空にひときわ輝く明けの明星(金星)をご覧になり、その美しさに感じ入られ」たとのことです(出典:宮内庁ホームページ)。
「明」というお題に対し、「明星」を祈りとともに詠まれた御製であり、元日の夜明け前の空の美しさが伝わってくるように感じられました。
今回は、この御製をきっかけに「明星」を詠んだある天皇の御製をたどり、そこから見えてきた共通点について整理します。
仁孝天皇の御製における「明星」
天皇陛下の御製に詠まれた「明星」は、夜明け前の空に輝く光です。
新年の始まりにあたり、国の平安を祈る場で見上げた明星が、御製の中心に据えられています。
では、「明星」を用いて御製を詠まれた天皇は、他にもおられたのでしょうか。
そう思って調べてみたところ、今からちょうど200年前、文政9年(1826)に仁孝天皇が詠んだ次の御製が見つかりました。
かねの音とりの聲よりあかつきをしるくも見する明星のかげ
出典:『列聖全集』
現代語訳すると、「鐘の音と鳥の声よりも、夜明けをはっきりと告げてくれるのは、明けの明星の光だ」といったところでしょうか。
夜明けの気配を、耳と目で丁寧に捉えた御製だと感じました。
200年前の御製ですが、この一首に詠まれた夜明け前の空気感と静けさは、現代を生きる私にも自然に伝わってきます。
天皇陛下の御製における明星は、「新たなる年の平安を祈る」という祈りとともにあります。
一方、仁孝天皇の御製における明星は、暁を知らせる光として現れています。
前者は祈りの中に、後者は自然と時間の推移の中にあり、それぞれ「明星」が持つ美しさを感じさせます。
江戸時代後期を生きた仁孝天皇
それでは、この御製を詠まれた仁孝天皇とは、どのようなお方だったのでしょうか。
仁孝天皇は第120代天皇で、天皇陛下の6代前にあたる御方です。
江戸時代後期を生きた天皇であり、孝明天皇、皇女和宮の父としても知られています。
仁孝天皇の略歴をまとめると、次の通りです。
- 生没年:寛政12年(1800)~弘化3年(1846)
- 文化14年(1817)、父・光格天皇の譲位を受けて即位
- 父の意志を継ぎ、公家子弟の教養向上を目的とした学習所(のちの学習院)設立に着手
- 学問を好み、和漢の史書・古典の会読を催す
こうして見ていくと、天皇陛下と仁孝天皇の共通点は、明星を御製に詠まれたことだけではないように思えてきます。
第一に、お二人とも譲位によって天皇に即位されたことが挙げられます。
実際、上皇陛下は譲位の意向を示された当初、仁孝天皇に譲位した光格天皇の事例を調べるよう宮内庁側に伝えられていたと報じられています。
第二に、父の意志を継いだという点です。
天皇陛下もまた、上皇陛下が続けてこられた慰霊の旅を引き継がれています。
さらに天皇陛下は、仁孝天皇が設立に尽力した学習院で歴史学を学ばれ、現在は水問題の研究にも取り組まれています。
学問への姿勢という点でも、御二方には通じるものがあると感じられます。
こうして調べてみると、御製に詠まれた「明星」を通じて、過去と現在がつながっているように思えてきます。
今回、二つの御製で取り上げられた「明星」に共通するのは、夜明けの静けさの中で輝く光として詠まれていることでした。
明けの明星を見上げるたびに、この二首の御製を思い起こすことが増えそうです。
参考資料
<ウェブサイト>
- 宮内庁ホームページ「歌会始」(https://www.kunaicho.go.jp/culture/utakai/utakai.html)
- 宮内庁ホームページ「お題一覧(昭和22年から)」(https://www.kunaicho.go.jp/culture/utakai/odai.html)
- ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」、「デジタル大辞泉」、「日本大百科全書(ニッポニカ)」、「国史大辞典」、「日本人名大辞典」
- 産経ニュース「歌会始の儀 「明」お題に、陛下 新年の平安への祈り詠まれ、悠仁さま初めてご参列」(https://www.sankei.com/article/20260114-QRMYMLCJHRNQXNRJ6FZVT64YL4/)(2026/1/14)
- 産経ニュース「陛下 光格天皇の事例ご研究 宮内庁に調査依頼 6年半前」(https://www.sankei.com/article/20170124-7JVZYQZTQFJ73FLU2LACDV77VE/)(2017/1/24)
- 列聖全集編纂会 編『列聖全集』第十二巻,列聖全集編纂会,大正5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1914788 (参照 2026-01-20)
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