岩手県遠野市の銘菓「元祖明がらす」。
このお菓子を製造しているのは、まつだ松林堂。明治元年創業の老舗菓子店です。
元祖明がらすはごまとくるみが入ったもちもちしたお菓子で、くるみの切り口がからすの飛んでいる姿に見えることからこの名がついたんだそう。
お菓子の箱の中には「明がらす」の由来についての栞が入っており、そこには「藤波子爵」という人物が登場します。
どんな人かと思って調べてみたら、日本の近代史において大きな仕事を達成した人物だったことがわかりました。
明がらすを贈られた藤波子爵
お菓子と同梱されていた栞の一部を以下の通り引用します↓
明治四十年七月、時の馬政局次長だった藤波子爵が南部駒の市場として盛岡と並び称された遠野に馬産視察で訪れた際、くるみの切り口が、明け方に飛ぶからすの様子に似ていることから、二代目松田桂次郎が「明がらす」と命名して同子爵に贈ったのが「元祖明がらす」の起源でございます。
出典:遠野銘菓 元祖明がらす 栞
明治40年、藤波子爵に明がらすを贈ったのが元祖明がらすの始まりとのこと。
「馬政局事業概要 第5次」という書誌によると、明治39年から明治41年の間に馬政局次長を務めていたのは、藤波言忠。称号は子爵です。
遠野に来た藤波子爵とは、この藤波言忠のことで間違いなさそうです。
専門分野は馬と憲法学……?
この藤波言忠について調べてみると、ペリー来航の年に生まれ、明治、大正に活躍した人物だったようです↓(参考:コトバンク)
■ 藤波言忠 : 嘉永6年(1853)~大正15年(1926)
- 明治天皇のご学友であり側近
- 馬に対しすぐれた鑑識眼を持つ
- 天皇、皇后に憲法学を進講した
明治天皇のご学友で、馬政局次長を務めるほど馬に詳しい。
ここまでならわかるんですが、明治天皇、皇后に憲法学を進講?
馬と憲法学って、ちょっと結びつかないような…。
明治天皇と皇后に憲法学を進講
藤波言忠が憲法学を学んだのは、オーストリア。
伊藤博文の恩師であるドイツ人の憲法学者シュタインに師事しました。
(伊藤博文はシュタインから立憲君主制の重要性を学び、憲法草案作りに尽力します)
その後、明治20年(1887)、帰国した藤波言忠は明治天皇、皇后に憲法学を進講。
その二年後、明治22年(1889)に大日本帝国憲法が発布されました。
日本で初めての近代憲法を制定するのに際し、ドイツの憲法学を明治天皇と皇后に進講する。
これが藤波の仕事だったのですが、明治天皇のご学友であり側近でもあった藤波言忠だからこそ果たせた大役だったと思います。
馬政局次長で憲法学?と最初不思議に思ったのですが、経緯を知るとなるほどな、という感じ。相当頭の良い方だったんでしょうね。
(明治天皇、皇后のお二人が憲法学を学ばれていたことも驚きです)
銘菓からその地の歴史を学ぶことは多いですが、明治天皇のご学友であり、憲法学の先生でもあった人物に行き当たってちょっと驚きました。
元祖明がらすを食べるたびに、藤波言忠を思い出すことになりそうです。
<参考資料>
・[馬政局 編]『馬政局事業概要』第5次,[馬政局],〔大正4-8〕. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/930540 (参照 2023-09-20)
・産経新聞「忘れられた明治憲法 公布130年で今一度見直す好機」(2019/5/3)
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