歴史を学ぶ

【御製に詠まれた風景】昭和52年の青森行幸──「強き雨のまがにもめげず」と青森の稲穂

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昭和52年(1977)、青森県で初めて開催された「あすなろ国体」に際し、昭和天皇は青森県内を御視察され、三首の御製を詠まれました。
国体開会式の情景を詠んだ御製、弘前のりんごの実りを詠んだ御製については、すでに取り上げましたが、このとき、もう一首、青森県の農業の風景に目を向けた御製があります。

強き雨の まがにもめげず 青森の あがたの小田に 稲穂いろづく

出典:『行幸啓誌』

一見すると、秋の実りを静かに詠んだ一首に見えますが、この「強き雨」は、この年に起きた大きな自然災害を背景としていました。

昭和52年8月の豪雨災害と青森行幸

昭和52年9月30日、青森行幸の初日、昭和天皇は青森県庁において、稲作を含む県勢の概要について御説明を受けられています。

この行幸の様子をまとめた『行幸啓誌』(青森県, 1978.2)には、青森県庁の特別展示室で説明資料をご覧になる昭和天皇のお姿が掲載されています。
展示室には「青森県の気象と冷害」と題された資料が掲示されており、昭和天皇がそれをじっとご覧になる様子が記録されています。

また、竹内俊吉青森県知事による県勢概要御説明では、次のような御説明が行われました。

去る8月5日、低気圧の通過に伴う大雨により、弘前市、黒石市を中心に津軽一円に大きな被害を受けましたが、この災害にあたり、かしこくも、天皇陛下よりお見舞を賜り、誠に感激に堪えません。ここに謹んで御礼申し上げる次第であります。

出典:『行幸啓誌』

昭和天皇が御製に詠まれた「強き雨」は、この県勢概要御説明で言及された、8月5日の豪雨を指していると考えて差し支えないでしょう。

8月5日に青森を襲った「強き雨」

昭和52年8月4日から5日にかけて、青森県は記録的な豪雨に見舞われました。
岩木川、平川、浅瀬石川、土淵川などが相次いで増水・氾濫し、特に津軽地方では被害が集中しました。
弘前市で24時間雨量243ミリを記録し、寺沢川流域などで甚大な被害が生じています。

青森県の資料によれば、この豪雨による被害は、死者11名(弘前市9名、黒石市2名)、重軽傷者30名、被害額は県全体で467億円に及びました。
内訳は、土木関係274億円、農林関係137億円とされ、県の基盤整備や農業に大きな打撃を与えた災害であったことがわかります。

同年の青森県予算総額は、約2,734億円でした。
被害額の467億円は県予算の1/6に相当します。
被害額は予算と単純に比較できる性質のものではありませんが、県全体に及ぼした影響の大きさを考えるうえで、一つの目安とすることはできるでしょう。

 

このような災害に見舞われた青森県ですが、「その後天候は持ち直し、現在は、米も、りんごも豊かな稔りの秋を迎え」たと竹内県知事は昭和天皇に報告しました。

昭和天皇御自身も、青森県内を御視察される中で、実際に稲穂がいろづく風景をご覧になり、この御製を詠まれたものと考えられます。

御製に詠まれた「まが」と「実り」

このような災害を経た青森の状況をお知りになった昭和天皇が詠まれたのが、「強き雨のまがにもめげず」から始まる御製です。
ここで静かに詠まれているのは、災害の記憶を留めつつも、田には実りが戻っているという、青森県全体の風景です。

 

ここで、昭和52年の青森行幸において詠まれた御製を並べてみます。

  • 花火開き 風船あがり 青森の 秋の広場に 若きらつどう
  • 弘前の 秋はゆたけし りんごの実 小山田の園を あかくいろどる
  • 強き雨の まがにもめげず 青森の あがたの小田に 稲穂いろづく

大雨災害に見舞われながらも、祝祭感に満ちた国体開会式を成功させたこと、弘前の園にりんごの実がいろづいたこと、そして災害の後にも稲穂が実ったこと。
当時を生きていない私にも、この情景が目に浮かんでくるような気がしてきます。

「強き雨のまがにもめげず」と詠まれたこの一首は、昭和52年という年に青森県が直面した現実と、その中にあった回復の兆しを伝えてくれる一首だと思います。

 

🧭 参考:

参考資料

<国立国会図書館デジタルコレクション>

  • 行幸啓誌』,青森県,1978.2. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12261230 (参照 2026-02-10)
  • 青森県土木行政概要』昭和52年度版,青森県土木部,1977.6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9670429 (参照 2026-02-10)

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<ウェブサイト>

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