歴史を学ぶ

【漫画で知る先人】陸羯南と学友たち──弘前発『マンガ陸羯南』と明治の俊才たち

歴史を学ぶ

先日、一冊の漫画を読む機会を得ました。

その漫画とは、弘前市教育委員会が小中学生向けに製作した『マンガ陸羯南』という作品です。

主人公は、新聞『日本』の創刊者であり、正岡子規の支援者としても知られる明治のジャーナリスト、陸羯南(くが・かつなん)。

この漫画をきっかけに、私はこれまで以上に陸羯南に関心を抱くようになりました。

作品の中では、かつて羯南と机を並べた学友たちの存在にも触れられています。

この記事では、『マンガ陸羯南』に登場する東奥義塾・司法省法学校時代の学友たちの顔ぶれをご紹介します。

弘前の子どもたちのための漫画資料

加工元画像出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」(https://www.ndl.go.jp/portrait/datas/261/)

『マンガ陸羯南』は、郷土の偉人を親しみやすく伝えるために、弘前市教育委員会が制作した漫画作品です。

制作に関わった方々は以下のとおりです(敬称略)。

  • 漫画:仁山渓太郎(漫画家)
  • 原案:櫛引洋一(弘前市立郷土文学館企画研究専門員)
  • 監修:舘田勝弘(陸羯南会会長)

弘前市立郷土文学館は陸羯南ら郷土の先人の資料を多数収蔵・展示する施設。

専門家の方々が原案、監修を担当しているので、貴重な情報が多く、読みごたえがありますよ。

東奥日報の記事によると、「不屈の精神でわが国の言論界に大きな足跡を残し、郷土の偉人として語り継がれている羯南の足跡と志を子どもたちに知ってほしいという願いが込められて」いるんだそう。

なお、この漫画は、B\&G財団の公式サイトにて無料公開されており、どなたでも読むことができます。

※サイト内で「陸羯南」と検索すると表示されます。

陸羯南の学友たち

『マンガ陸羯南』では、若き日の陸羯南が出会った多くの学友たちとの交流も描かれています。

その顔ぶれを見ると、のちに日本の各界で活躍する人物が名を連ねており、歴史好きにはたまらない内容です。

東奥義塾時代

明治6年(1873)、陸羯南は15歳のときに弘前の東奥義塾に入学し、以下のような先人たちと机を並べて学んでいました。

珍田捨巳(外交官、昭和天皇の侍従長)

加工元画像出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」(https://www.ndl.go.jp/portrait/datas/519/)

東奥義塾を経てアメリカ留学後、外交官として各国に駐在し、条約改正や文化交流に尽力しました。

昭和天皇の侍従長も務めた弘前出身の英才です。

佐藤愛麿(外交官)

加工元画像出典:Wikimedia Commons「Aimaro Sato, 1901」(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Aimaro_Sato,_1901.jpg)

名前の読みは「よしまろ」。

東奥義塾を経てアメリカの大学で学び、メキシコ・オランダ・アメリカなどで大使を歴任。

後年は宮内省御用掛として伏見宮家に仕えました。

一戸兵衛(陸軍大将)

加工元画像出典:Wikimedia Commons「Ichinohe Hyoe」(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ichinohe_Hyoe.jpg)

西南戦争・日清戦争に従軍し、日露戦争では旅順攻防戦で活躍。

晩年は学習院長・明治神宮宮司を歴任し、人格者として尊敬を集めました。

伊藤重(養生哲学の創始者)

加工元画像出典:Wikimedia Commons「Shigeru Ito」(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shigeru_Ito.png)

東奥義塾、東京帝国大学で学び、弘前で医師・市長・衆議院議員として活躍。

「養生哲学」を提唱し、医療と教育を通じて地域社会に大きな影響を与えました。

司法省法学校時代

家庭の事情で東奥義塾を退学した陸羯南は、仙台師範学校を経て、東京の司法省法学校(東京大学法学部の前身)に入学します。

ここでも出会いは続きます。

原敬(第19代内閣総理大臣)

加工元画像出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」(https://www.ndl.go.jp/portrait/datas/172)

司法省法学校を退校後、新聞記者や外交官を経て首相に。

「平民宰相」として政党政治を主導し、近代日本の政治に足跡を残しました。

加藤拓川(外交官、正岡子規の叔父)

加工元画像出典:Wikimedia Commons「Akiyama Yoshifuru in 1917」(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Akiyama_Yoshifuru_in_1917.jpg)集合写真より加藤拓川をトリミング

司法省法学校で原敬・陸羯南らと親交を深め、のち外務官僚・ベルギー公使に。

晩年は松山市長を務め、郷土と政界に尽くしました。

福本日南(新聞『日本』創刊者)

加工元画像出典:Wikimedia Commons「Fukumoto Nichinan」(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Fukumoto_Nichinan.jpg)

新聞『日本』で編集者として陸羯南を支えた後、衆議院議員に当選。

文筆活動も続け、『元禄快挙録』はベストセラーになりました。

国分青厓(新聞『日本』創刊者)

漢詩で時代を風刺した昭和詩壇の重鎮。

陸羯南とともに創刊した新聞『日本』の〈評林〉詩欄で鋭く世相を詠み「評林体」と称されました。

 

陸羯南にとって、加藤拓川は正岡子規と出会うきっかけを作り、福本日南と国分青厓は後に『日本』を創刊する仲間に。

この司法省法学校での交流関係が、後の陸羯南の人生に大きな影響を与えていることがわかります。

 

以前書いたブログでもご紹介しましたが、司法省法学校在学中、学内で起きた食事をめぐる騒動をきっかけに、陸羯南たちは校長に直訴します。

本人たちは当事者ではなかったにも関わらず、友人のために声を上げた結果、退校処分に。

このエピソードは漫画でも印象的に描かれており、陸羯南ら学生たちの利他の精神に触れる場面となっています。

「マンガ陸羯南 原画展」開催中

佐藤紅緑について書いたブログでもお伝えしましたが、この漫画の原画展が弘前市にて開催中です。

なんとか都合をつけて、青森に暮らす父とこの企画展に行こうと考えています。

というのも、私の父は若い頃に陸羯南に憧れ、今でも陸羯南の漢詩を暗記しているほどで、それなら一緒に観に行こうということになりました。

 

堅苦しく感じがちな歴史も、漫画なら自然と楽しめて共感できる…そんな新しい学びのあり方を実感しました。

この作品は、郷土の歴史にふれる貴重な入口であり、大人にとっても新たな学びがある一冊だと感じました。

 

  • 企画展 :スポット企画展「マンガ陸羯南 原画展」
  • 観覧料 :小・中学生50円、一般100円
  • 開催期間:2023年7月22日(土) ~ 2023年9月24日(日)
  • 休館日 :年末年始(12月29日~1月3日)、展示替期間(3月22日~3月31日)
  • 開催場所:弘前市立郷土文学館(青森県弘前市大字下白銀町2-1)

 

<参考資料>

コトバンク

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