【青森県弘前市】大浦城址碑の揮毫者、子爵津軽益男

先日のブログでは、弘前市五代早稲田にある大浦城址碑とその歴史について書いたのですが、今回は碑の揮毫者について書いていきます。

碑に刻まれているのは、「大浦城址　子爵津軽益男書」。

この大浦城を拠点にして津軽統一を果たしたのは、弘前藩初代藩主、津軽為信。

おそらくこの揮毫者は津軽家の子孫なんだろうと思って調べてみたら、やっぱりそうでした。

揮毫したのは、黒石藩の藩主を務めた津軽家のご当主でした。

黒石津軽家 13代、津軽益男

黒石市は弘前市の東部にある市で、かつてこの地域は黒石藩が治めていました。

黒石藩は弘前藩の支藩で、支藩とは「本家から分かれた者が藩主となっている藩」のこと（引用：コトバンク）。

『津軽黒石藩史』によると、津軽益男は代々黒石藩藩主を務めた黒石津軽家の第13代目当主で、爵位は子爵でした。

津軽益男が生まれたのは明治時代。

因州鹿奴藩（現在の鳥取県鳥取市）藩主の池田家に生まれ、後に黒石津軽家12代類橘の養子となり、黒石津軽家を継ぎました。

12代類橘の母（11代承叙の正室）も同じ池田家だったので、家同士の関係が深かったんだと思われます。

碑の側面を確認してみると、この大浦城址碑が建てられたのは昭和15年（1940）12月23日。

昭和15年は皇紀2600年の年であり、12月23日は皇太子（現在の上皇陛下）御誕生日。

非常におめでたい日にこの碑は建てられたようです。

ちなみに、皇紀とは初代天皇の神武天皇が橿原で即位した年を元年とする紀年法のこと。

皇紀は西暦に660年を足した数字であり、皇紀2700年まであと17年です（何かしらお祝いをするのかな？）。

神武天皇即位から2600年という節目の年、青森県を含め全国各地でお祝いが行われたそうです。

この年の11月10日には東京で皇紀2600年奉祝式典が行われたのですが、なんとこの式典の参加者に津軽益男の名前が！

『青森県議会史』によれば、青森県からの式典参加者は「二百五十余名」、本県関係者の名前の一覧で津軽益男は四番目に掲載されていました。

この式典の写真、何枚か見たことがありますが、広場を埋め尽くす人の数に驚いた記憶があります。

この歴史に残る式典に参加していた人だったんだ…！

皇紀2600年を記念して、津軽家の居城だった大浦城址に碑を建てる。

その碑に揮毫するのは、皇紀2600年奉祝式典に出席した津軽家の子孫。

大浦城址碑を建てた先人たちはとても誇らしく思ったでしょうね。

黒石津軽家は今も続いていて、現在のご当主はなんと第15代目。約400年間続いている家です。

この黒石津軽家の祖となったのは、津軽信英。江戸時代前期の人で、本家である弘前藩2代藩主、信枚の二男です。

その後、黒石津軽家8代の親足の時代に黒石藩が成立、親足は黒石藩の初代藩主になりました。

また、歴代当主の内、6代寧親、9代順徳の二名が本家を相続し、弘前藩の藩主を務めています。

寧親というと、以前のブログに書いた高照神社の随神門、廟所門を建てた藩主。

また、寧親は別のブログで少しだけ触れた「相馬大作事件」で狙われた藩主でもあります。なかなか大変なご苦労をされていたようで…。

参考までに、初代から15代までの一覧はこちらです↓（参考：『津軽英麿伝』、津軽新報）

現在のご当主は黒石神社（黒石市市ノ町）の宮司を務めており、この神社の御祭神は初代津軽信英です。

神社周辺には黒石城址や観光地で有名なこみせ通りもあり、歩いているだけで楽しそうな街です。

いつか行ってみたいな～。

<参考資料>

・津軽新報「平成２４年６月２０日（水）付紙面から」（http://www.shinpou.jp/2012_hpnews/news_0000/0620.html）

・森林助編『津軽黒石藩史』,歴史図書社,1976. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9536726 (参照 2023-10-23)

・青森県議会史編纂委員会編『青森県議会史』昭和11-15年,青森県議会,1973. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3022539 (参照 2023-10-23)

・羽賀与七郎著『津軽英麿伝』,陸奥史談会,1965. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2986800 (参照 2023-10-23)

※国立国会図書館デジタルコレクションの閲覧には、利用者登録が必要な場合があります。